ゲームレビュー@『Ever17』

2009年04月15日

■ゲームレビュー

散りばめられた伏線が与える極上のカタルシス
『 Ever17 -the out of infinity- Premium Edition 』 (PSP)


◆Ever17 -the out of infinity- Premium Edition (PSP)
Ever17 -the out of infinity-(通常版) Premium Edition

水深51メートルの世界に佇む海洋テーマパーク『LEMU(レミュウ)』。
天国と見まがう素晴らしき楽園は、原因不明の事故により海の監獄へと姿を変えた。

初めて出会ったにも関わらず、同じ目的を持つことになった僕達。
奇妙な運命共同体の中で、僕は様々な人達と出会った。

僕は知っている。
彼の名前は倉成武(クラナリ タケシ)。
一見おちゃらけているようで、自分が大切だと思うことは最後まで貫く男性。

僕は知っている。
彼女の名前は田中優美清春香菜(タナカ ユウビセイハルカナ)。
逆境に負けない強い精神と共に、繊細な心をもっている女性。

それから…え?僕の名前?
分からないんだ。記憶喪失というものらしい。
だから僕は僕のことを知らない。

「名前なんてそんなに大切なことじゃない」

少なくとも彼らと出会った時には僕はそう思っていた。
ただ、違和感を感じていたんだ。
何に感じていたのかは分からないけれど。

そして時は過ぎていったんだ。ゆったりと、でも確実に。
近づくタイムリミット。未知なる恐怖。
僕らの身に危険が迫るたびに
その違和感はどんどん大きくなっていった。

もしかすると僕は大切なことを忘れているのかもしれない。
僕が記憶を思い出すことで、大切な仲間である彼らを救えるのかもしれない。
でも、思い出せないんだ。どうしても思い出せないんだよ。

だから、君にお願いしたい。
僕の記憶を取り戻してくれないかな。
そして、彼らを救ってほしいんだ。

君なら出来るはずだ。
だって、君の瞳は”見ている”はずだから。




---【 与えられるのは極上のカタルシス 】---

音楽や文学、演劇などの連続性のある芸術作品において、
あるポイントを境にそれまで準備され蓄積されてきた伏線や地道な表現が
一気に快い感覚に昇華しだす状態や、またその快い感覚。

このような状態や感覚を正式用法の「抑圧からの開放」になぞらえて”カタルシス”と呼ぶ。
この言葉こそが本作品の魅力を最大限に表現しているのだ。

プレイヤーは二人の視点から物語を進めていくことになる。
物語の序盤で好きな主人公を選択し、要所要所の分岐点で運命を選んでいく。
分岐点とは言っても、物語の大きな流れを変えるほどの変更ではないので
一つの選択が即バッドエンドに繋がるといったことは少ない。

本作の大きな特徴として、”物語を繰り返し味わう”ことがあげられる。
一通りの物語を終えると画面中央に現れる文字。

”This story is not yet the end.(この物語はまだ終わっていない)”

そして、プレイヤーは再び物語を体験することになる。
そして、物語を繰り返すたびに新たな局面に出会い
プレイヤーが感じた数々の謎や違和感が、一つ一つ紐解かれていくのだ。

徐々に全貌を示す事件の真相や仲間達との関係。
そして、自らの正体。
物語を全て終え真実を貴方が見た時、
疑問に思っていた言動が全て伏線であったことに気づく。

緻密に幾重にも折り重ねられた伏線。
それらが徐々に紐解かれていく快感。
そして、最後に与えられるのは極上のカタルシス。

『Ever17』とはそういった作品なのだ。


---【 最高の演劇には最高の客席を用意すべき 】---

ループを繰り返すという流れをとる限り、
既読文章を出現させる必要性はどうしても生まれる。
同じ文章を何度も何度も読み、その度に楽しめるというプレイヤーは少ない。
(時間を空けて読むという場合は話は別だが)

プレイヤーにストレスを感じさせないためには適切な対応が必要となるわけだが
多くのアドベンチャーゲームに見られるように
本作にも文章のスキップ機能が用意されている。
既読文章(プレイヤーが望むのならば、プラスして未読文章)を高速で流すことにより
プレイヤーは未経験の文章、すなわち未知の楽しさに
素早く出会うことが出来るわけである。

ただ、プレイヤーへの配慮として用意したスキップ機能にツメの甘さを感じる。
そして、そのツメの甘さが本作唯一と言っても良い不満点である
「スキップ速度の遅さ」に繋がっている。
厳密に言うと速度は平均的なものであり決して遅くはない。
中盤以降にかけて既読文章が多くなってくるに従って”遅く感じる”のである。

本作品は多機種からの移植である。
前作で同様の不満が出ていないとは考えにくいのだが
秀逸な文章が用意されていたため、不満点が露呈しなかったのだろうか。

もし、「プレイヤーからの不満を知っていて対策をしなかった」
あるいは「プレイヤーのプレイスタイルに委ねた」というのであれば
それは単なる甘えであると判断せざるを得ない。

最初から最後までプレイヤーを惹きつける最高の演劇『Ever17』。
最高の演劇を用意したことに満足してしまったのか、
客席に対する配慮は最高のものとはなっていないのが珠に傷という印象である。


---【 カタルシスという名の輝きに出会うべし 】---

不満点は上述したように確かにある。
だが、物語の秀逸さを考えれば霞んでしまうというのもまた事実なのだ。
多少の不満点などは吹き飛ばす素晴らしさが本作には詰まっているのだから。

物語の随所に散りばめられた伏線とそれらの回収。
徐々に明かされていく事件の真相はプレイヤーの好奇心をくすぐっていき
完結までぐいぐいと引っ張る力を持っている。

また、物語を彩るために用意されたキャラクター達も魅力的である。
各人がそれぞれの考えを持ち、冷静に事を運びながらも時には感情を爆発させる。
フルボイスで喋る感情のこもったセリフには、いやがおうにも心を動かされていくのである。

PSP版で追加された”語句説明”は難しい語句が度々出現する本作において
ユーザーフレンドリーなものに仕上がっているし
新規に作成されたOP(本レビュー中にある動画)は
スピーディーに流れるダイジェストという雰囲気で大変素晴らしい出来。

読み物として考えた場合、本作は一級品の輝きを放っている。
たとえ光の届かぬ深い海の中でさえ、その輝きを見失うことはないだろう。
ほんの少しだけ、貴方の視線を母なる海へと向けてみてほしい。

きっと貴方の瞳に飛び込んでくるはずだ。
『Ever17』が放つカタルシスという名の輝きが。



[要点Check!]

オススメ度 
 ★★★★★★★★☆☆ 
プレイ時間(目安) 
 物語完結までに30時間程度。
ココが素晴らしい
 ・物語中に散りばめられた伏線の数々
 ・魅力的なキャラクター達
 ・物語を終えた時に与えられる極上のカタルシスと達成感
ココが気になった
 ・スキップ機能の速度
  (未読文章まで一気に飛ばすというスキップがあれば親切)
コメント
 分岐点は多くなく、またどれを選択しても大差がないものが多いため
 ゲーム性は低いが、読み物としては一級品。
 あくまで読み物として楽しむという前提であれば
 オススメ度は★9つと考えても良し。










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この記事へのコメント
何ですか、この秀逸な文章は。(感激
ゲーム内容に触れず、ここまでの評価を文として表現できるのは
才能も手助けされていると思いました。
僕も欲しかった・・・。

文面からも伝わってきますが、完璧な達成感を味わったのでは
ないかと思います。
このような作品を薦めることができ、また、同じ感動を味わえて、
僕は非常に嬉しいです。

ゲームをクリアしたあとに欲しくなった能力は、完全記憶消去能力。
記憶を消去して、もう一度達成感を味わいたいと思わされました。

スキップ機能について。
人に寄りきりでしょうね、ここに関しては。
僕は、スキップしているときの「間」も好きでしたから。
その部分を作り直すことより、「語句説明」のテキストを
おこすことの方が時間は掛かったでしょうし。(苦笑

でも、「中だるみ」という評価もありますからね。
やっぱり、スキップ部分も直した方が良かった・・・のかな。

このようなAVGが発売されていたことに、無上の感謝を。
Posted by マサ at 2009年04月19日 19:38
>マサさん

>何ですか、この秀逸な文章は。(感激

お褒めにあずかり恐縮ですが、秀逸なのは自分の文章ではなくて
『Ever17』本編の文章ですよ。
レビューは思ったことをつらつらと述べているだけですから(笑
それでも、自分なりに一生懸命書いたレビューに賞賛のお言葉を
頂けるのは大変有難いです。

>完全記憶消去能力

実際にあるとしたら、ちょいと怖いですがやってみたいですね。
でも、そうしたら同じソフトしか遊ばないのでゲーム業界の危機ですね~。
と、杞憂を述べてみたり。

>スキップ機能について

一回や二回くらいなら良かったんですが、
何度もプレイする場面があったもので気になりましたね。
既読部分も多くなっていますし。

プレイヤーによっては、「最後のシナリオに行く前にやめてしまう」
なんてことが起こるかもしれないという考えのもと
不満点としてあげさせてもらいました。
せっかく用意したシナリオなんですから
最後まで楽しませる努力は怠るべきではないですからね。
まして、本作は移植ですので。

プレイを薦めてもらったわけですが購入して良かったですよ。
また良い作品があったら教えてください。
多くの作品をプレイしているので必ずプレイ出来るというわけではないですが
プレイ作品の参考にはさせてもらいますので。
Posted by kazuyunakazuyuna at 2009年04月20日 00:47